震災復興への応援メッセージ

プロサファラー・ツーリズム
(Pro-Sufferer Tourism:被災者に裨益する観光)の必要性

石森氏

石森 秀三 氏
北海道大学観光学高等研究センター長
北海道大学大学院観光創造専攻教授
特定非営利活動法人日本ヘルスツーリズム振興機構理事

1945年神戸市生まれ。甲南大学経済学部卒業。ニュージーランド・オークランド大学大学院に留学後、京都大学人文科学研究所研究員、国立民族学博物館教授・研究部長などを経て、2006年に北海道大学観光学高等研究センター長に就任。北大大学院観光創造専攻を立ち上げる。観光文明学、観光創造学専攻。観光立国懇談会委員、国土審議会専門委員、文化審議会専門委員、広域・総合観光集客サービス産業支援事業運営委員会委員長、ラグジュアリートラベル促進委員会委員長、地域資源活用促進調査委員会委員長などを歴任。著書・編著書・論文多数。

私は東北地域が大好きです。東北各地を訪れると何故か心が安らぎ、癒されます。私は神戸生まれの神戸育ちで、1995年に発生した阪神淡路大震災の時にも神戸に居住していました。
実は私が東北地域と本格的にかかわり始めたのは、阪神淡路大震災の直後からでした。大震災直後の3月に大混乱の神戸を離れて、東北各地を数日訪れる機会がありました。そのさいに東北の自然の豊かさ、伝統文化の多様さ、東北人の奥ゆかしさと優しさに触れることができ、一挙に東北に魅せられました。そういう意味で、東北各地はまさに「ヘルスツーリズムのメッカ」になりうる地域です。 我が愛する東北で大きな悲劇が生みだされました。昨年の3・11以後にテレビを見るたびに涙また涙の日々を過ごしました。まさに茫然自失の日々でした。そして、ふたたび3・11がやってきました。東北の震災復興のためになにができるのかを悩み続けていますが、簡単に答えは見出せません。
貧困問題に悩むアフリカなどの発展途上国ではすでにプロプアー・ツーリズム(Pro-Poor Tourism:貧困者に裨益する観光)が盛んになっています。従来型の観光開発はしばしば貧困者を観光の局面から疎外しがちであり、観光は貧困克服に貢献していないという批判がなされてきました。そういう状況のなかでアフリカ諸国を中心にして、貧困者に益するような観光開発のあり方が模索されています。
私はプロプアー・ツーリズムとの類比で、プロサファラー・ツーリズム(Pro-Sufferer Tourism:被災者に裨益する観光)の重要性を提唱しています。東日本大震災は、巨大地震、未曽有の大津波、福島原発事故と放射能汚染などによって甚大なる被害と数多くの悲劇をもたらしました。被災地域における震災復興はすでにさまざまなかたちで始まっていますが、観光による地域再生の推進も不可欠です。
すでに被災地域においてボランティア・ツーリズムが盛んに行われていますが、その一方でボランティア・ツーリズムの功罪についての議論もなされています。要するにボランティア・ツーリズムは本当に被災地域の人々に裨益しているのかという議論が生じています。東日本大震災をきっかけにして東北各地でより望ましいプロサファラー・ツーリズムを実現しないといけません。観光創造学の立場で少しでもお役に立ちたいと念じています。